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書の基本は線である

何事も基礎が大事。よく聞く言葉です。

「これは基本だから必ず押さえておくように」
「基礎がなかったら、一気に崩れるから」
「土台がしっかりしてないと家は崩れるでしょ」

なんとなく分かっていた気になっていました。
でもどこか、あいまいに捉えていました。
そもそも何が基本なのか、理解できていませんでした。

幼いころから筆を持って練習していました。
初めて筆を持ったのは3歳の頃。
何か文字を書いていたわけではなく、
ただ楽しくて筆と触れ合っていました。
幼稚園に上がることには手本を真似て書く練習を繰り返していました。

私はものもと長さを把握することが苦手でした。
例えば人が5センチくらいと感じるものを、2センチと捉えてしまっていたり
余白を数センチほど残さないといけないのに、余白を潰してしまったり。
長さを捉える感覚に少しズレがあったのだと思います。

まだ幼い私の手は小さく、短い指を使って手本の長さをはかり、
自分が書く半紙にその長さの爪痕を残して書いたりしていました。
幼いながらに「同じ長さの線を書けば、手本通り書けるはず!」と信じていました。
私は指や掌、腕の長さを使い
ありとあらゆる方法を使いいかに手本通りの長さで書くかを
幼いながらに考えていました。

「同じ長さの線を書けば、手本通り書けるはず!」
この幼い時の考え方は中学卒業まで持っていました。
しかし高校生になり、古典を臨書(手本を見ながら書くこと)することになり初めて
同じ楷書でも文字の印象が違うということにはっきり気づかされました。

書の古典とは、多くの先人たちが残してくれた美しい筆跡のことです。
この筆跡を学習することが、書道において正当な学習方法とされています。
古典により、線質を学び、書の深さを知ることができます。
例えば欧陽詢の「九成宮」の古典と「龍門20品」の古典を比べてみます。

      
左が九成宮の「年」
右が龍門の「年」

右の「年」は迫力のある「年」です。
力強く、またどっしりと構えている印象を受けます。

左の「年」はすっきりしています。
バレリーナが足を広げてすっと構えているような、そんな美しい「年」です。

同じ文字でも、全く印象が違うことがお分かりいただけたのではないでしょうか。
特に「龍門」の古典に出会った時は本当に感動しました。
力強さに圧倒されました。
九成宮の美しい線質にも引き付けられました。

「長さを同じように書けば・・・」
その程度にしか思っていなかった私の考え方が変わった瞬間です。
この2つの古典は何が違うのか。
答えは線です。

右の「年」
起筆が進行方向に対してほぼ垂直に入っているため、
太くてどっしりとした線です。
左の「年」はナイフでスパッと切ったような起筆と終筆です。
細くて美しい線です。

力強い1線を重ねれば、力強い文字になります。
柔らかい1線を重ねれば、柔らかい文字になります。
その文字にふさわしい書を書くためには、その文字にふさわしい線で書く必要があります。
1線1線の表現が、意志の持つ文字を作り上げるのです。

文字というのは線の集合体。
つまり、書の基本は線だということを私は常に意識します。
そのため色んな古典に触れるように努めています。

古典は線の宝庫です。
怒りや憎しみを表現するための線質
悲しさを表現する線質
幸せを表現するための線質
愛らしさを表現するための線質。

書を通して表現するためには
基本の線を学ぶ必要があるのです。

古典を通して
一緒に線を学ぶ旅に出てみませんか?
書道ってとても面白いです。

桔梗